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更新日:2024/09/18
【1分でわかる】ペロブスカイト太陽電池を徹底解説~従来型との比較、特徴、将来性、課題まで~
太陽光発電の領域でペロブスカイト太陽電池が注目を集めています。
ペロブスカイト太陽電池は、従来の太陽光発電システム(シリコン系)より、エネルギー変換効率を格段に高めることが期待できるうえに、コスト安につくれるポテンシャルを有しています。
この記事では、従来の太陽光発電システムのデメリットを確認したうえで、ペロブスカイト太陽電池の特徴と将来性、課題を解説します。
Contents
従来の太陽光発電システムの課題
太陽光は地球に無尽蔵に降り注ぎ、なおかつ無償です。
この天の恵みを使う太陽光発電は、画期的なエネルギー獲得手法といえるでしょう。
そのため従来型太陽光発電は全世界で使われていますが、それでもなお、火力発電や原子力発電を不要にするほど普及しているわけではありません。
それは従来型太陽光発電システムには次のようなデメリットがあるからです。
従来の太陽光発電システムのデメリット
- 効率が悪い
- コスト高
- 柔軟性が低い
- 安定しない
ペロブスカイト太陽電池は、これらの従来型太陽光発電システムのデメリットのいくつかを補うものとして期待されています。
ペロブスカイト太陽電池の特徴
ペロブスカイト太陽電池の特徴をみていきましょう。
ペロブスカイト太陽電池に何が使われていて、どのような仕組みで電気をつくるのか解説します。
そもそもペロブスカイトとは
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトを使って太陽光のエネルギーを電気に変える発電技術です。
ペロブスカイトとは、特定の結晶構造を持つ化学物質の総称で、その主な原料はヨウ素と鉛です。
ペロブスカイトは太陽光をどのように電気に変えているのか
太陽光は光子という粒子の形態で地球上に降り注いでいます。
ペロブスカイトには光子を吸収する性質があるので、ペロブスカイトを太陽光に当てるとそのなかに光子が蓄積されていきます。
電気を起こすのは、ペロブスカイト内の電子で、ペロブスカイト内に取り込まれた光子は、電子を励起します。
励起とはエネルギーが低い状態から高い状態に移る現象です。光子が電子を刺激してエネルギーが高まる、といったイメージです。
励起された電子は(つまり高いエネルギーを得た電子は)、エネルギーを持った状態で移動を始めます。そして電流が生まれます。
電流が生まれた状態こそ、電気の誕生です。
以上の過程から、ペロブスカイトが太陽光から電気をつくっている、といえるわけです。
シリコン材料を使わないことの優位性
太陽電池には大きく、シリコン系、化合物系、有機系の3つのタイプがあります。
従来型太陽光発電はシリコン系に属し、ペロブスカイト太陽電池は有機系に属します。
ペロブスカイト太陽電池の優位性はシリコンを使わないことにあります。
太陽光発電に使えるほどの高純度のシリコン(シリコンウエハ)をつくるには、シリコン鉱石を約2,000度の高温で加熱してシリコンを取り出し、精製を重ねて不純物を取り除く必要があります。シリコンウエハは高コストであるだけでなく、地球に優しくないのです。
しかもシリコンウエハを太陽光発電に使うには太陽光パネルにする必要があります。
太陽光パネルはシリコンウエハをガラスに貼り付けて、さらにポリマーシートで挟む構造になるので1平方メートルあたり10kgにもなります。
ペロブスカイト太陽電池はシリコンの代わりにペロブスカイトを使っているわけですが、この主要原料はヨウ化鉛です。
ヨウ化鉛は鉛とヨウ素を化学合成してつくるため、材料コストも製造コストも、シリコンウエハと比べるとはるかに安価にすることができます。
なお日本は世界有数のヨウ素生産国です。
また太陽電池に使われるペロブスカイトは液体にすることもできて軽量なので、さまざまな物質に塗って使うことができます。
ペロブスカイト太陽電池の将来性
ペロブスカイト太陽電池が次世代太陽電池とみなされているのは将来性が高いからです。
ペロブスカイト太陽電池の可能性を紹介します。
シリコン系を追い抜くポテンシャルがある
現在、太陽電池全体に占める従来型太陽光発電(シリコン系)のシェアは95%にもなります。
今は、太陽光発電といえばシリコン系といってもよいくらいです。
一方のペロブスカイト太陽電池は一部で実用化されていますが、それでもまだ研究段階、開発段階といったレベルです。
この点は経済産業省も「現状ではコストを含む性能面でシリコン系に対して競争力を持つ見込みが立っていない状況」と認めているところです。
またシリコン系のエネルギー変換効率が、最高レベルの製品で26.7%を記録している一方で、ペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は20%ほどです。
ではなぜペロブスカイト太陽電池が、それでも次世代太陽電池と期待されているのでしょうか。
それはペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率が2022年までの7年間で2倍に向上しているからです。
この進化のスピードはシリコン系の開発スピードの4倍になります。
この進化スピードは、シリコン系を追い抜くポテンシャルとみなすことができ、それで経済産業省は「(ペロブスカイト太陽電池は)、飛躍的な成長を遂げており、シリコン系に対抗しうる太陽電池として有望視されている」とその将来に期待しているのです。
赤外光を使えればエネルギー変換効率はまだまだ高められる
先ほど、エネルギー変換効率は、従来型太陽光発電(シリコン系)の最高記録が26.7%、ペロブスカイト太陽電池が20%ほどと紹介しましたが、ペロブスカイト太陽電池はまだまだ高められると考えられています。
それはペロブスカイト太陽電池なら赤外光を利用できるからです。
地球に届く太陽光の内訳は、可視光50%、紫外光光6%、赤外光44%となっていますが、従来型太陽光発電が使えるのは可視光だけです。
ペロブスカイト太陽電池も主に可視光を使っていますが、赤外光も使える製品が現れ始めました。赤外光利用が進めばエネルギー変換効率は飛躍的に向上するでしょう。
曲がる太陽電池
ペロブスカイト太陽電池には曲がる太陽電池という異名があります。
従来型太陽光発電システムでは硬くて重い太陽光パネルを用いるので曲げて使うことができません。
そのため従来型太陽光発電システムは、住宅や工場の屋根や、平らな土地に並べることしかできないのです。
一方のペロブスカイト太陽電池はフィルム状に加工できるので曲げて使うことができます。
そのうえ軽量なので設置場所を選びません。住宅や工場の屋根だけでなく壁にも貼り付けることができるので、より多くの太陽光を集めることができます。
日本はペロブスカイト太陽電池のトップ集団にいる
日本はペロブスカイト太陽電池開発のトップ集団に位置しています。
経済産業省はペロブスカイト太陽電池について「研究開発段階から、製品化、生産体制などにかかる基盤技術開発から実用化・実証事業まで一気通貫で取り組み、2030年を目途に社会実装を目指す」と述べています。
ペロブスカイト太陽電池を含む次世代型太陽電池の開発には、積水化学工業、東芝、アイシン、カネカ、東京大学、立命館大学、京都大学などが参加しています。それぞれが次世代型太陽電池の要素技術を研究、開発していて、その統合が待たれます。
実用例では、積水化学工業が2025年に、JR西日本・うめきた駅(大阪市)の広場にフィルム・タイプのペロブスカイト太陽電池を設置します。
一般共用施設にペロブスカイト太陽電池が設置されるのは世界初です。
また、株式会社エネコートテクノロジーズは株式会社マクニカと共同で、ペロブスカイト太陽電池をCO2センサーに搭載しました。
世界各国で開発が進んでいる
ペロブスカイト太陽電池のポテンシャルは世界中の研究者や企業が認めていて、研究や開発が進んでいます。
イギリスのオックスフォード大学発のスタートアップ(企業)は、ペロブスカイトとシリコンの両方を使ったタンデム型太陽電池をつくり、エネルギー変換効率29.5%という驚異的な数値を叩き出しました。
中国や韓国、ポーランドもペロブスカイト太陽電池を使った新しい試みに挑戦しています。
ビジネス戦略
ペロブスカイト太陽電池の実用化は、ビジネスに乗るかどうかがカギを握ります。
ペロブスカイト太陽電池のビジネス戦略には、屋内・小型、軽量・フレキシブル型、超高効率型の3つが検討されています。
屋内・小型は、先ほど紹介したCO2センサーなどにペロブスカイト太陽電池を搭載するものです。
後段で紹介しますが、ペロブスカイト太陽電池には耐久性の問題があるのですが、屋内・小型での利用なら耐久性の問題はそれほど深刻になりません。
ペロブスカイト太陽電池の実用化は、まずこの領域で進むものと考えられています。
軽量・フレキシブル型は、従来型太陽光発電システムではアプローチできなかった場所に設置する戦略です。
建物の屋根だけでなく壁にも設置できますし、ペロブスカイト太陽電池は軽量なので、太陽光パネルを載せられなかった物体の上にも載せることができます。
超高効率型は高いエネルギー密度が求められる交通車両や航空機などに利用する戦略です。
交通車両や航空機の表面積は、建築物の表面積よりはるかに小さいので、超高効率なペロブスカイト太陽電池でないと使いものになりません。
超高効率化はコストの壁が高くて厚く、実用化は簡単ではありません。
ペロブスカイト太陽電池の課題
ペロブスカイト太陽電池の課題は実用化です。
現在はまだ、従来型太陽光発電システム(シリコン系)をペロブスカイト太陽電池に置き換えることはできません。
課題は大型化と耐久性の向上、そして鉛問題です。
大型化が難しい
従来型太陽光発電システムが普及したのは大型化に成功したことも一因になっています。
太陽光パネルが広大な敷地に並んだ光景はおなじみだと思います。
一方ペロブスカイト太陽電池の開発では大型化に難航しています。
難しいのは材料のペロブスカイトの結晶を均一にすることで、大型化しようとするとどうしてもばらつきが生じてしまいます。
結晶がばらつくとエネルギー変換効率が低下してしまうのです。
耐久性を向上させることが難しい
ペロブスカイト太陽電池の原材料の1つであるヨウ素は安定性が低く、劣化しやすい欠点があります。
ヨウ素を使い続けていてはブレークスルーを達成することは難しいと指摘する研究者もいて、耐久性が高いほかの物質を使えないか検討されています。
もしくは、ヨウ素を使い続ける場合は、ヨウ素を保護する技術が必要になります。
鉛問題
ペロブスカイト太陽電池のもう1つの原材料である鉛は有害物質でその使用は慎重にならざるをえません。
ペロブスカイト太陽電池から鉛を漏出させない技術を開発するか、もしくは鉛に変わる物質でペロブスカイト太陽電池をつくる必要があります。
まとめ
次世代の太陽電池、ペロブスカイト太陽電池を紹介しました。
再生可能エネルギーの利用拡大は国レベル、世界レベル、地球レベルで検討しなければならない重要課題ですが、大量かつ無償のエネルギーを使うことができる太陽光発電はその有望株の1つです。
しかし、従来型太陽光発電システムはコスト高や低エネルギー変換効率、低柔軟性といった課題を抱えていて、爆発的に普及するところにまで至っていません。
そのためペロブスカイト太陽電池の研究開発に世界中が注視しているわけです。
しかも日本はペロブスカイト太陽電池開発で世界をリードしているので、より関心が高まっています。
従来型太陽光発電システムでは設置に課題があった企業も、ペロブスカイト太陽電池が解決できる未来はすぐそこにあるでしょう。