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更新日:2024/11/13
介護施設のBCP対策とは?~策定のポイントを紹介~
2021年の介護報酬改定により、全ての介護事業者は、BCP策定や訓練が義務化されました。
BCP策定は、自然災害や感染症などの緊急事態においても利用者の安全と健康を守り、介護サービスを継続できる体制を確保するために極めて重要です。
この記事では、介護施設のBCP対策と策定のポイントについて紹介します。
BCP対策とは?
BCP(Business Continuity Plan)対策とは、災害やテロ攻撃、感染症などの緊急事態が発生した際にも、企業や組織が重要な業務を中断することなく、あるいは被害を最小限にして業務を早期復旧して継続するための計画です。
BCPは、企業のレジリエンスを高めるための重要な手段であり、特に大規模な災害や危機が発生するリスクが高まっている現代社会において、その重要性は増しています。
介護施設のBCP対策とは?
介護施設のBCP対策は、災害や感染症などの緊急事態が発生した場合に、介護サービスを途切れさせることなく提供し、入居者や利用者の安全を守るために特化した計画です。
介護施設の入居者や利用者は、特に高齢者や身体の弱い人が多く利用しているため、災害や緊急事態においては他の業種以上に細やかな対策が求められます。
BCPを事前に整備し、職員がその内容をしっかり理解していることは、入居者の生命と健康を守るために極めて重要です。
介護事業者に対してBCP策定が義務化
前述のとおり、2021年の介護報酬改定により、全ての介護事業者は、BCP策定や訓練が義務化されました。
介護事業者に対してBCPの策定が義務化された背景には、災害や感染症といった緊急事態においても、介護サービスの安定供給を確保し、利用者の安全を守る必要性が増していることがあります。
BCP策定のメリット
介護事業者がBCPを策定する大きなメリットは、緊急事態が発生した際にも適切に対応できる体制を整えることができ、利用者の安全を確保し介護サービスの提供を継続できることです。
ここでは、項目別に策定によるメリットを紹介します。
利用者と職員の安全確保
緊急事態においても安全を確保するためにあらかじめ対応を決めておくことで、職員が利用者の命を守るための行動がとれるようになります。
介護サービスの継続と信頼の向上
BCPを策定することで、緊急事態においても介護サービスが中断することなく継続される可能性が高まります。
また、災害後の復旧計画があらかじめ整備されているため、サービス提供を迅速に再開でき、施設の運営への影響を最小限に抑えることができます。
これにより、安全性の高い施設として利用者やその家族、地域社会から信頼を得ることができます。
地域社会との連携強化
BCPには、外部機関(医療機関、消防、警察、自治体など)との連携が含まれることが多く、地域全体での対応力が強化されます。
これにより、緊急時において地域社会全体で支援し合える体制が整います。
地域との連携を強化することで、介護施設は災害や緊急事態においても、利用者や職員の安全を確保しながら、サービスを継続的に提供することができます。
補助金・助成金が受けられる
BCP策定には経済的なメリットもあり、政府や自治体からはBCP策定を支援するために補助金を提供しています。
施設はこれを活用して、備蓄品の購入費用を賄うこともできます。
自然災害のBCP策定と対策
BCP策定は「計画を作る」プロセスであり、BCP対策は「その計画に基づいて実際に行う行動や準備」を意味します。
どちらも介護施設の安全とサービスの継続を守るために不可欠です。
ここでは、介護施設の自然災害のBCP策定と対策のポイントを紹介します。
自然災害のBCP策定のポイント
自然災害のリスク評価・影響分析
施設が直面する可能性のある自然災害のリスクを評価し、重要な業務(介護ケア、医療支援、食事の提供など)への影響を分析し、業務中断した場合の復旧の優先順位や時間を設定します。
地震:耐震性の確認、揺れに対する施設の安全性、非常用電源の確保。
台風:豪雨・洪水や強風による被害のリスク、避難ルートの浸水リスクの評価、代替拠点の確保。
津波:海岸近くの施設は深刻な浸水や施設の損壊リスクがあるため、早期警報システムと高台への避難ルートの確保が必要。
火災:自然災害が引き金となる火災のリスクを考慮し、避難計画の整備。
情報共有と連絡体制の整備
災害時には、迅速な情報共有と連絡が不可欠です。
職員、利用者のご家族、行政機関、医療機関などの連絡先をリスト化し、緊急時に迅速に連絡が取れる体制を整えることが重要です。
また、地域の自治体や防災機関と連携し、避難情報や災害対応の指示を迅速に受けられるようにします。定期的な情報交換や防災訓練を実施することも有効です。
職員の役割分担
災害が発生した際に利用者の安全を確保し、サービスを維持するためには、各職員が何をすべきかを明確に定める必要があります。
職員の役割分担を明確にすることで、緊急時に迅速かつ適切な対応が可能になります。
また、平常時と緊急時の業務内容を把握し、被災状況に応じて対応できるように業務の優先順位を決めておくことが重要です。
備蓄管理
災害時に備えて、必要な物資や医療機器を適切に備蓄・管理します。
水や食料などは人数に合わせて備蓄します。非常食は使用期限や賞味期限があるので、定期的にチェックし過不足があれば補充することが重要です。
医薬品・医療機器に関しては、利用者が必要とする薬や医療機器を備蓄し、定期的にチェックと更新をします。
また、生命維持に必要な機器の電源確保も検討する必要があります。停電に備えて、非常用発電機や予備バッテリーを確保し、医療機器の使用を継続できる体制を整えることが重要です。
停電対策として太陽光発電を導入もおすすめです。
太陽光発電でBCP対策については、太陽光発電でBCP対策!企業が知っておくべきメリットと事例の記事で解説しています。
訓練と計画の見直し
BCPの実効性を高めるためには、計画の定期的な訓練と見直しが欠かせません。
災害リスクや施設の状況に応じて、少なくとも年1回はBCPを見直し計画を更新します。
新たなリスクが判明した場合や施設が変更された際にも、即時に見直しを行います。
また、少なくとも年に1~2回、全職員と利用者を対象にした避難訓練を実施し、災害ごとの避難ルートや避難先を確認し、実際に利用者の移動をシミュレーションします。訓練後にはフィードバックを集め、問題点を解消するために改善策を練ります。
自然災害のBCP対策のポイント
介護施設における自然災害におけるBCPの対策は、入居者や利用者、職員の安全を確保し、緊急時でも介護サービスを継続できるようにするために重要です。
ここからは、自然災害のBCP対策のポイントを項目ごとに説明します。
利用者の安全確保
介護施設におけるBCP対策は一般的な企業とは異なり、利用者の安全確保が最大の課題となります。
特に高齢者や要介護者は自然災害時に迅速な避難が困難なため、避難の準備や実行には念入りな計画が求められます。
利用者の身体状況や要介護度に応じて、車椅子を使用している方、歩行補助が必要な方、認知症を遠慮する方など、それぞれの状況によって個別に避難計画を立てることが大切です。
また、自然災害に対応できる安全な避難ルートを確保し、定期的な避難訓練を実施することが大切です。
職員の安全確保
自然災害時の職員の安全確保も非常に重要な要素です。職員の安全を確保し、利用者の避難やケアを正しく行うことで全体の危機対応ができます。災害時は緊張やストレスが高まるために、職員の健康状態の把握とケアも重要です。
サービスの継続
サービス継続のポイントは、利用者の命と健康を守りながら、できる限り通常のケアを維持することです。
災害時には、限られた資源の中でケアをすることになるのでサービスの優先順位を明確にする必要があります。
また、災害後に利用者は、精神的に大きなストレスを感じることがあるのでサービス継続として、メンタルヘルスケアの提供も重要です。
参考:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
感染症のBCP策定と対策
介護施設における、感染症BCPは予測不能な感染症発生時に介護施設の運営を維持し、利用者と職員の安全を確保するために重要です。
感染症が拡大しないように平時から防止策について検討する必要があります。
介護施設の感染症のBCP策定と対策のポイントについて紹介します。
感染症のBCP策定のポイント
役割分担・体制の構築
感染が疑われる症例が発生した際に速やかに施設内の全スタッフに状況を共有できる体制を整えます。
全体の意思決定者と各業務の担当者を定め、職員が感染して休む場合や、隔離が必要となる場合に備えて他の職員や外部支援者が代行できる体制を構築します。
感染者(疑いを含む)が発生した場合の対応方法を決める
感染者が発生した場合でも、感染の拡大を防ぎながら施設内の安全とサービスの継続を確保することが重要です。
感染者が発生した際の対応を整理してシミュレーションを行うことが大切です。
また、利用者や職員に感染が広がらないように、施設内で感染経路を断つための対策を徹底します。
職員の確保
感染症発生時、職員は介護サービスを提供し続けるために感染症防止策を徹底します。
しかし感染拡大時には、職員が減少する可能性があるため、あらかじめ柔軟なシフト体制を整えておくことが重要です。
職員が多様な業務を遂行できるよう、複数の業務を学ぶクロストレーニングを行うことも効果的です。
また、地元の行政機関との連携を図り、外部からの応援職員を確保するために、協定や契約を事前に結んでおくことが重要です。
業務の優先順位の整理
感染症拡大時には、限られた職員でどの業務を優先して行うかを明確にすることで、利用者の健康と安全を守りつつ、施設の運営を持続させることができます。
利用者の命に直結する業務を最優先にし、日常的なケア業務を次に行うなど業務に優先順位をつけて整理しておくことが重要です。
訓練と計画の見直し
BCPの実効性を高めるためには、計画の定期的な訓練と見直しが欠かせません。
訓練後にはフィードバックを集め、問題点を解消するために改善策を練ります。
介護施設は感染症BCPを策定・訓練・見直しすることで、緊急時でも安全にサービスを継続し、利用者や職員の安全を守ることができます。
感染症のBCP対策のポイント
介護施設における感染症におけるBCPの対策は、感染症の拡大を防ぎながら、安全かつ継続的に施設の運営を行うために重要です。
感染症のBCP対策のポイントを項目ごとに説明します。
感染症防止対策の強化
感染症防止対策を強化することで、感染症のリスクを大幅に軽減し、施設内での安全な環境を維持することができます。
感染発生時だけでなく、通常時から手洗いや消毒、マスク着用、施設内の換気、消毒作業などを行い、感染を発生させないように努めることが大切です。
また、外部からの感染を防ぐため、外部との接触を最小限に抑えます。
感染症が流行している時期は、施設内での面会を制限または禁止します。代わりに、オンラインでの面会(ビデオ通話など)を推奨し、利用者と家族のコミュニケーションを維持します。
施設に出入りする業者に対しても、体温測定や消毒、マスク着用を徹底し、できる限り接触を避けるようにします。
検査と隔離
高齢者や免疫力の低下した利用者が多い介護施設では、感染のリスクが特に高いため、適切な検査と迅速な隔離措置が不可欠です。
感染が疑われる利用者や職員が出た場合、速やかにPCR検査や抗原検査を実施します。感染が確認された場合には、感染者と濃厚接触があった人も迅速に検査を実施します。
これにより、潜在的な感染者を特定し、さらなる感染拡大を防ぎます。
また、感染者は速やかに隔離スペースへ移動させます。事前に感染者専用の隔離室などを設けておくことで、他の利用者や職員への感染を防ぐことができます。
外部との連絡
感染症の発生が疑われる場合や確認された場合、保健所や医療機関と連絡を取り、感染状況を報告し、適切な対応を求めることが重要です。
家族への情報提供
感染症の状況や施設の対策について、利用者の家族や関係者への情報提供は信頼関係を維持し、家族の不安を軽減するために非常に重要です。
参考:介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
まとめ
介護施設のBCP対策は、利用者と職員の安全を確保しながら、緊急時にも施設運営を継続するための計画と準備のことを指します。
感染症や自然災害に対する事前の準備が万全であれば、非常時にも迅速で効果的な対応が可能になります。
策定後もBCPの実効性を高めるために、最新の情報・知見なども踏まえ計画の定期的に見直すことが大切です。